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●荒瀬光治(あらせ・みつじ)


立ち止る余裕さえない時代

 デザイン作業をしていて「おや、おかしいな」と思ったら受話器を取り電話する。5分そこらで疑問は解消し、間違いの少ない印刷物ができる。
 が、この電話1本がなかなか面倒くさい。一度電話して相手が席にいないと、そのまま進めて初校で、などと考えてしまう。このような時にかぎり、実は原稿が1枚分抜けていたり、写真が1枚不足していたりで初校戻りで、レイアウト変更などということになってしまうことが多い。手間を惜しむとろくなことはない。
 PDFを送った後には電話する。Faxも送った後には電話する。仕事の基本だが日々ルーズになりつつある。添付したつもりが添付を忘れ、Faxしたつもりが忘れていたりと、55歳も過ぎると自分の行為に自信が持てない。困ったもので心配性にもなる。その場での電話を怠ると2、3日前に送ったPDFが本当に先方に届いたかどうか気になり、どうも落ち着かなくなり「今更」と思いながらも確認の電話をと悩んでいると、赤字のFaxが送られてきて安心する。ここのところ、そんな心配が多い。毎回送った後の確認も相手によっては、煩雑な気分を与えてしまうような、そんな気分にもなってしまう。ただ自分が面倒くさいだけなのだろうが。
 29年間お世話になった日本ジャーナリスト専門学校が閉校となった。かつては、3つも校舎があったが100人減り200人減りと、昨年からは1つの校舎だけでも空き部屋が目立った。ちゃんと出席している学生には、制作の技術は可能な限りは伝えたつもりだが、荒瀬の専門はデザインで、制作の中の視覚的な表現技術を教える講座である。最後の半期は「レイアウト」と「色彩構成」。可能な限りストーリーが理解できるようにと、その授業の内容が雑誌づくり、本づくりのどの位置の作業として生かせるのかを意識するようにと解説したつもりである。
 ただ、この学校で本当に考えてもらいたかったのは、メールやFax、そしてパソコンなどで便利になった今のこの社会とは何か? 逆に欠如してしまうものがあるのではないか? それをどうやって回復するか?を、立ち止って考える余裕を持てるようにするには? などなどで、12級3ミリを覚えることではなかったのではないかと最近より考えるようになっていた。もちろん12級3ミリを知ることも大切ではあるのだが。
 立ち止る余裕さえない今の社会を、その社会にいながら冷静に見つめることができる人材を育てることが、日本ジャーナリスト専門学校の目的だったように思える。
 自分にそれができるか?と問われると、はなはだ自信がないのだが。多少まわりに迷惑をかけながらも(従業員が可哀想なのだが)、「怠け者!」と自身を罵りながらも、自己嫌悪に陥りながらも、考えるようには心がけてはいる。 (2010.4.12)


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