●荒瀬光治(あらせ・みつじ) この際、開き直る
数ヶ月前の話であるが、テレビを観ていたら、コマーシャルに出ている、有名な女優の名前が出てこないので焦ってしまった。
で、コーヒーを入れて戻ってきた、かみさんに「ほら、あの、誰だっけ。『キューポラのある街』に出ていた、浜田光雄と共演していた、早稲田出身の、有名な女優」と、聴いてみる。 「吉永小百合でしょ。大丈夫?」と、怪訝な顔をする。 大丈夫じゃない。かなり焦った。名前が出てこない自分が信じられないほど、ともかく焦った。頭の中には、たったいま観たコマーシャルの映像だけじゃなく、40年も前の眼帯をした彼女(たしか『愛と死をみつめて』だったか)や、橋幸夫と「星よりひそかに〜」とデュエットする彼女やら、最近の朗読する彼女やら、さまざまな能の引き出しから映像と音声とがグルグル回っている。が、名前の「○○○○○」の引き出しだけが錆び付いてしまったのか、「よ・し・な・が・さ・ゆ・り」が出てこなかった。 20代のの若者に吉永小百合の名前が出てこないのは仕方が無い、私だって宮崎あおいと蒼井優の区別ができるようになったのが、ここ2年くらいで、上戸彩とあやや(松浦亜弥)が別人と知ったのが6年前。 が、57歳の荒瀬に吉永小百合という名前が出てこないのは、やはり老いなのか。もしや痴呆症では……。などなど、いろいろと考え、自信も無くなってくる。その数日後には、高校時代の友人にも心配された。 先日、その友人と飲んでいると、急に「先日の荒瀬の吉永小百合の名前が思い出せないは、ちょっと心配したが、今日出掛けに聴いた曲を歌っている歌手の名前が出てこない。今まで、こんなことは無いのだが、顔も分かるし他の曲も分かるんだが」と。で、出だしを歌ってもらう。「そりゃ小田和正だろ」「そうだ!」 よかった。それにしても吉永小百合が出ないで、小田和正が出てくる。まぁ……いいか。はは。とりあえずは「忘却」に乾杯! いま、私には携帯の「ウィキペディア」と「広辞苑」は、必携である。 (2010.8.23) |