ペコのサラブレッド
3月1日 水曜日
日記をサボっている間に、3月に突入してしまいました(苦笑)
今日は第1号のハロちゃんの出産予定日。……にも関わらず、まだ兆候は少しだけ。 私の経験の中で学んだお産の兆候を紹介します。まだまだ経験不足で少ないですけど。
兆候1:餌の食べが少なくなる。
兆候2:お乳が張ってきて先っぽに白い(水滴のような)ものが付く。
兆候3:お尻の穴(胎児が出てくる所)が下に広がってくる。
兆候4:お乳が垂れはじめる。
他にもまだ変化は沢山あると思われますが、今の私にはここまでが限界です。しかも、もちろん例外の馬もいるし。
兆候4が見られるといよいよカウントダウン開始です。
今のハロちゃんはといいますと、お乳は張ってきたと思います。でも、あとはさっぱりなしです。
まだちょっとかかりそうです(>_<)

3月3日 金曜日
昨日、今日と、やっぱり目に見えた変化はないです。
「ハロちゃん、早く生んでくれないと次が控えてるよ」と思わず声をかけてみるのですけど、耳を伏せられました(怒られました)。
余談ですが、ハロちゃんと私は相性があまり良くないです(私はそう思っています)。初めからそうでした。はっきり言って舐められてます。正直、私の天敵(ライバル)です。
もちろん可愛いですよ。けど、日々戦い続けています。まったく気の抜けない日々なんです。
ライバルに一言言うなら、「早く生んでしばらく休戦しましょ」といった感じでしょうか? あっ、すでに私逃げ腰ですね。

3月4日 土曜日
今日のハロちゃんの変化はといいますと、お乳の先が白くなってきて、お尻の穴も心なしか下がってきた気がします。
夜の馬房での様子はなんか怪しかったです。なんとなくいつもより落ち着きがないように見えます。おしっこをするわけではないのに、尻尾を持ち上げるという行動が目につきます。お尻に違和感があるようです。いよいよなのでしょうか?
……と思ったのに、空振りでした。やっぱり分からない(>_<)

3月5日 日曜日
夕べの行動のことがあるので、放牧中もなかなか気が抜けません。過去には放牧中にということもあったので。
あの時はビックリしました。私が1年目のしかもまだ2回目のお産でした。放牧地の馬(その時は4頭が一緒に放されていたと思います)が騒いでいたんです。何かあったのかなぁ?と思ったら、1頭の馬が胎盤(胎児がお腹の中で入っている袋)を引きづりながら他の3頭を追い払っていました。まだ雪の残る中、母馬は子供を産み落としてしまったのでした。
それを見て集まってきた他の馬たちの『興味津々』といった態度が忘れられません。「あらあら、どうしたのよ?」そんな声が聞こえてきそう。いえ、私には聞こえました。『野次馬』の『馬』の意味がよく分かりました。まさしくここのオバチャン馬たちは野次馬そのものでした(笑)
チビを母の馬服の上に乗せて、雪の上を滑るように馬房へ連れて帰りました。危うく踏まれそうになったのですが、何事もなくて良かったです。
今ではその子(女の子)はかなり逞しく育っているそうです。あの時の記憶があるからなのか、ないからなのか、はたまた全く関係ないのか。何はともあれ本当に良かったです。

3月6日 月曜日
やりました。第1号無事誕生です!!
やっぱり放牧中にお産の兆候がきました。場長に「始まりそう」と言われ、馬房の用意を簡単にしてから駆けつけると、すでにお尻から羊水の詰まった袋と脚先がのぞいていました。馬房に連れて帰り、消毒液、ヨウチン、その他必要最低限のものを用意したら、いよいよです。場長と二人、馬房に入り寝ているハロちゃんの後ろに回ります。袋を破いて脚先が出たら、さあ引っ張ります。
初めて脚を引っ張ったのは3回目のお産でした。あの時はどうしていいのか分からないまま、ドキドキしながら指示にしたがいました(今思うと、呼吸も忘れるほどでした)。今ももちろんドキドキですけど、さすがに3年目。私も大人になりました(少しだけ)。
前脚と顔が見え始め、ハロちゃんの呼吸と合わせます。体の半分が出てしまえば、あとはツルンと抜けます。 「また女の子か」と場長のお言葉。3年連続の女の子。正直に言うと、競走馬は女の子より男の子の方が望まれます。でも後々は女の子の方が扱いはいいんですけどね。
顔の羊水を払い、まだ寒いので体をタオルで拭いてあげます。「生まれたてって小さいなぁ。なのに何年後かにはこんな(母馬)になっちゃうんだ」とお疲れぎみのライバルハロちゃんに目を向けてみます。さすがにこんな時はおとなしい。とりあえずがんばりました。
しばらくすると子馬が踏ん張り始めます。この子はお腹から出てきて20分くらい経った時だったと思います(かなり早いと思いました)。すでに立ち上がろうとしました。これは本当にたくましすぎます。何度も何度も転び続けて、よたよたよろけながらも立ち上がりました。最初はかなりおぼつかない足どりです。笑ってしまうくらい(ちびゴメン)。でも10分もするとちゃんと立っていられるようになるんです。
ハロちびの凄さはまだありまして、立ち上がるとお乳を飲みたくなるんです(本能ですよね)。乳房をタオルで拭いてあげるのですが、その時すでに、自分でお乳を探してしまいました。人がお乳の所に誘導してあげるはずだったのですが、全く必要無しでした。ちょっとだけお乳をしゃぶるのが難しいみたいなので、指をくわえさせてお乳の先までもっていってあげただけです。
午前9時出産。10時には無事一人でお乳が飲めるようになりました。これでとりあえずは一安心です。ハロちびが手の掛からない子で良かったです。
第1号のお産はかなり楽なものとなりました。次は大変になるはずです。初子の子が2頭続くのです。すでに1頭は昨日予定日でした。兆候は全然なし。まだまだ時間が必要そうです。

3月7日 火曜日
今日はハロちびの初放牧です。生まれて1日でもう外の世界に行くのです。
まずはやっぱり馬服。ちび専用の小さいのがあるんですよ。首から被るタイプのものなので、ゆっくりゆっくり首を通します。何をする(される)にしても初めてのことばかりです。する方としても緊張の連続です。小心者のちびの場合、飛び上がって暴れることもあります。「あれ?」と思うくらい落ち着いていました。大人だぁ。
乳酸菌など、いろいろな菌が含まれた飼料を1目盛り口に含ませ、いざ出発です。私が母を引っ張り、場長がちびを軽く抱え込みます。「ヨッタヨッタ」歩きます。母からちびがちょっとでも離れようものなら、「ブヒブヒ」言って呼びます。
放牧地に無事到着(先日雪かきした小パドックです)。親を放します。この時の母馬は本当に親です。ちびが歩くときは柵の内側に来るように母がガードします。車道側を大人が歩いて、内側を子供に歩かせる。人間と同じです。初子の初放牧の時から、当たり前にやっているのには本当に感心しちゃいます。そしてちびから目を離さない。ちょっとでもちびが何かしようとしたらすぐ駆けつけます。普段はボケッとしてるだけなのに…(ごめん、ハロちゃん)
ちびもすごい。お昼に一度馬房に入れて、午後また外に出します。その時にはハロちゃんが手をやくほど走り回っちゃってました。
この一日一日の中での成長の早さは見ていて楽しいです。
夕方、早速調教師さんが見に来てくれました。二年後お世話になるんだから、今から愛想よくしないとね!!

3月8日 水曜日
ハロちゃんは、初子の時からお乳の出がよくありません。全く出ないわけではないんですけど、ちびが満足出来る量は出ないのです。
というわけで、今年もまた代理母やることになりました。今年でハロちゃんの子は3頭目。ミルクやりがんばりますよ。
まずは哺乳瓶に慣れてもらわないといけません。ちびがお乳を飲みたくなった瞬間がチャンスです。最初は感触が違うせいか、なかなか飲んでくれません。母のお乳に吸いついた時に、うまく哺乳瓶にすり替えます。というのを何回か繰り返します。
ちびもお腹が空いているので、美味しいものが出てくると覚えたら飲むようになります。生まれてすぐの場合ですが。
ハロちゃんのお乳のそばですり替えながらなら飲んでくれるようになりました。とりあえず、哺乳瓶の感触はクリアかな?

3月9日 木曜日
1日5回のミルクのおかげで、ちゃんと飲めるようになってきました。
また余談ですが、昨年の子は大変でした。何がどうしてそうなったのか? 順調に飲めるようになったのは良かった。……しかし、耳を伏せて怒りながら近づいてくるんです。ミルクを飲みながら、ずっと耳を伏せているんです。で、時々壁を「ガン!」って蹴ります。私の足にも何度かはいりました。あれは痛かった。
その子(女の子)は今では女の子の仲間の中でも一番威張っているそうです。先日育成の方に見に行ったら本当でした。近づいてくる子をみんな蹴散らして追い払ってしまいました(苦笑)

3月12日 日曜日
ハロちびが生まれて1週間が経ちました。早いなぁ。
そこで、今日の夜からハロちびのミルクが1本から2本に変わりました。
1本増えたのに、楽々2本を空にしました。しかも、そのすぐ後に母のお乳の所へ向かうのを目撃! まだ足りないのか? お願いだからお腹こわさないでね。
ちなみに今年のハロちびは、耳を伏せません。壁を蹴りません。やったぁ〜。……今の所は、ですけど(笑)

3月15日 水曜日
全くふれるのを忘れていました。今現在、予定日を過ぎた馬が3頭もいます。
やっと予定日を10日過ぎ、アズミねぇさん(私は馬を呼びたいように呼びます。しかもその時々で変わります。分かりづらかったらすみません)が産気づきました。
アズミねぇさんについて簡単に触れます。ハロちゃん以上に、戦いが必要とされる恐い馬です。口は出る。脚は跳ぶ。かなり命がけです。放牧地では大人しいけど、馬房では明らかに殺気があります。私が馬服を着せていましたが、跳び蹴りをすぐします。場長に押さえてもらわないと1人ではとても着せられませんでした。本当に恐い子です。放牧地では可愛いのですけど。
その子が出産。しかも初子。どうなることかとかなり心配だったんですけど…。見事にその期待(じゃないよなぁ)に応えてくれました(苦笑)
出産の兆候が見え始めたのは夜の九時半頃。馬房をウロウロ歩き回り、破水が始まったのは十時過ぎでした。ベテランの馬だったら座り込むのですけど、初子なのでなかなか座ってくれません。今までも初子の出産はほとんど立ったままでした。座り方が分からないみたいです。
その点では、アズミねぇさんはちゃんと座ってくれました。が、馬房に人が入った途端に立ち上がって威嚇しました(はははっ)。2回目に座ったときは、威嚇できないほどの痛みがあったみたいで、どうにか近づくことができました。
お産事態は軽かったと思います。十時半には無事に出産終了。大抵は産んだ疲れでしばらくは立ち上がらないんですけど、アズミねぇさんは…。ちびのへその緒が切り終わるのを待っていたかのように、また立ち上がって威嚇。強すぎ。
今回はハロちゃんの時とは違って、育成の方から2人手伝いに来てくれていました。良かったです。私じゃ役に立たないです(T_T)
人が近づく度に威嚇するので、うかつに馬房に入れません。ちびのやる気にかかっていました。ちびは立ち上がろうとがんばっていました。でもなにぶん母の方が慣れていないので、ちびの脚を踏みそうだったり、踏んでしまったりと大変でした。
お乳も大変でした。母に引き手(綱)をつけて押さえて、ちびをお乳に誘導します。母は体を回して蹴ろうとします。壁にガンガン蹴りが入ります。鼻ネジ(リ)という、その名の通り鼻をねじるものをつけます。鼻をねじると不思議と大人しくなるんですよ。急所だからでしょうか?しかしねじっても2回ほど壁に蹴りが入りました。「早く自力で飲んで」と、何もできない私は祈ってしまいました。
何回か繰り返しました。母の威嚇は和らぎませんが、ちびがなんとか1人で飲めるようになったので、とりあえず社長の家でモニターを見ることにしました。初子の場合、ちびをいじめたりして子育てをしない馬もいます。私の牧場にも1頭いて、毎回乳馬(母)のお世話になっている子がいます。アズミねぇさんも正直心配でした。モニターの姿には全く殺気がないアズミねぇさんがいます。どうやら人に対してだけ厳しいようです。安心しました。
ちびもちゃんとお乳を飲めるようになったので一安心。結局終わったのは二時過ぎとなりました。朝は六時起き。早く寝ないとと思うのですが、アズミねぇさんとどう戦うかを考えると、なかなか寝れないのでした。恐い!!

3月16日 木曜日
睡眠時間が3時間ほどだからなのか、アズミねぇさんと戦うことで頭がいっぱいだからなのか? 朝から頭痛がしています。でもがんばります。だって今日はアズミちび初放牧。
まずはハロちびから。さすがに生まれてから10日が経ったので、生活にも人にもだいぶ慣れてくれました。
さてアズミねぇさん親子です。馬房に入ろうものならくるっと体をひるがえし「蹴るわよ」の準備。いつからこんなになってしまったのか(T_T)
餌で釣ってみるのですがなかなか捕まりません。辛抱強く繰り返してやっとの思いで捕まえ、母を怒らせないようにちびも捕まえます。とりあえずアズミねぇさんを草カゴ(牧草を入れるカゴ)に縛りつけます。その母の顔もとで作業です。ちびを見えるところに置いておかないと暴れるのです。いえ、そうしてても暴れました。壁に穴が開かないといいんですが……。
手早くちびに馬服を着せて、乳酸菌の飼料を口に入れます。ハロちゃんの時と同じように母を私が、場長がちびを抱えて歩きます。が、母を引っ張る私は緊張しっぱなし。いつ蹴る仕草をするか分からない。なるべくちびから離れないようにと力一杯引っ張り続けました。
ようやく放牧地に到着!何ほどもない距離のはずが……長かった。放した瞬間、ホッとため息が出てしまいました。
アズミねぇさんもちゃんと母になるんです(かなり心配だったんですけど)。誰が教えたの?と問いたくなるくらい立派でした。
しばらくの間放牧に出しておいて、その間に馬房掃除です。こんな時は「馬がいない馬房ってなんて安心できるんだろう」としみじみアズミねぇさんのことを考えてしまいます。
ハロちびもアズミちびも昼前に一度馬房に帰します。ハロちびたちはもう大丈夫。すんなり帰ってくれます。
さて問題のアズミ親子。よりによってなんでこの親子が?という問題が。ちびの片目が目ヤニだらけ。ゴミでも入ったみたいです。目を洗わないといけなくなりまして……(おいおい!)またアズミねぇさんと格闘です。
また餌で釣り、柵の外から捕まえて放牧地の中へ。ちびも捕まえて、母を柵に縛りつけます。
「蹴り!蹴り!!蹴り!!!」の嵐です。柵が折れたら私と場長の命はきっと無かったでしょう。
バケツの水を脱脂綿に浸して何度も何度も目を洗いました。その間の母は気が狂ったかのように尻っ跳ねを繰り返していました。こわっ。
これから他にもいろいろな事があると思うのですが、本当に大丈夫なのでしょうか?と先行き不安な気持ちと、無事に今日を乗り切れたことでかなり疲れてしまいました。

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