荒瀬光治
6――タテかヨコか、生理的には横組が優位

 レジビリティの問題では縦組がいいか横組がいいかが、よく問われます。以前「新しい雑誌を作るんだが、どちらがいいんだろう」という質問を受けたことがありました。その時は「商業誌で、その雑誌を売りたいのなら縦組で、会社案内などその雑誌を売って採算をとる必要の無いものは横組にすべきでしょう」と答えていました。
 いまは少し乱暴ですが、「文芸誌以外は横組にすべきでしょう」と言ってしまいそうです。
 まず横組のメリットを考えてみましょう。一般の文章に数値や欧文が入る傾向が多くなってきました。そのため一般の人も横組の文章に触れる傾向は増えてきました。たとえば、いまの小学校の教科書は国語の他はすべて横組です。90 年代には一部実験的に横組を取り入れた小説もありましたが、売れないため横組は継続しませんでした。しかし現在では小説ですらブログ小説の印刷物化では横組を使っています。
 横組のメリットの最たるものは、身体的な問題です。じつは我々の眼球は縦に読むことに苦労する構造になっています。右上の図にありますように眼球を動かすための筋肉(外眼筋あるいは動眼筋)は 6 本あります。眼球を縦(上下)に動かすにはこのうちの 4 本を微妙に調節しながら行っています。


 過去、行われた実験では、実際の文字を読むと縦の方が速く読めるが、意味の無い記号では横の方が速く数えられるというデータがあります。最近、私自身が行った実験では文字も記号も横組が速く読めました(詳しくはPDFを参照)。
 このように生理的には横組ですが、我々のような 50 代以上は、まだまだ縦組が読みやすく感じます。特に日本の小説を横組で読もうとは思いません。単に慣習の問題だとは分かっていますが。
 仮名の元となる筆書きの構造は縦に流れます。また 1,500 年にもおよぶ漢字を中心とした縦書きの表現の中で文化を形作ってきたのも事実です。
 ただ、約 700 万年前、密林からサバンナに出て直立二足歩行を行った時代から眼球を直接上下に動かす筋肉がなかったという事実も考えるべきでしょう。

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