ひとくちに制作システムと言っても、各出版社や編集部でさまざまです。ましてやデザイン作業がDTP中心となってから出版社内部での作業や外部デザインプロダクションでの作業など、経済性優先の中で混乱している状況もみられます。
編集部あるいはプロダクションからデザイナーに原稿やラフ・レイアウトを入れることをデザイン入稿と言います。また、初校、再校と校正を進め、文字校了となったデータを印刷所に入れることを印刷所入稿(DTPデータ入稿)と言います。進行のための打ち合わせも重要となりますが、印刷所営業マン、編集者、デザイナーが基本となるシステムを理解していることが前提となります。 |
印刷に興味を持てない印刷所営業マン(当然自社の設備環境を知らない)や10年編集をしながらも、入稿後の印刷所内での作業を新人編集者に説明できない編集者、モニター内のDTP画面をいかにデコラティブにするかがデザインだと勘違いしているパソコンオタクのデザイナーなどでは、とても打ち合わせなど成り立ちません。当然ページ印刷物はひとりではできません。何十人もの人が関わる協同作業です。相互理解のためにも制作システムの理解は重要ですし、それが予算の削減にもつながります。
ここでは基本的な雑誌づくりのシステムをオフセット印刷を前提にチャート化してみました。 |
このチャートはDTP以降の工程を中心に作成しています。企画・取材・執筆の編集プロダクション業務に関しては『編集者アミのクリエイティブ日記』を参照ください。
まったくの初心者の方の場合、臨場感が持てないとは思いますが、まずは基本となる企画→編集→組版→製版→印刷・製本の流れを頭に入れましょう。予算の関係で図の一部、あるいはいくつかのセクションを省略したシステムを取り入れている所がほとんどです。しかし、一般的な雑誌やムックと呼ばれる単行本などの多くは、このようなシステムで作られています。 |
文字校正(初校・再校)や青焼校正、色校正の位置づけと校正内容程度は早めに覚えましょう。最近はCTPとなって青焼校正、色校正の製版校正をとらない編集部も増えてきています。多少作業に慣れてきたら印刷所内部も見学させてもらいましょう。どの工程も生身の人が作業してくださっていることを認識することが大切です。
現在はともすると、「お金を出しているから、やってくれてあたりまえ」などと、印刷に対する興味を持てない方が増えているようです。社会全体がトータルでのシステムを見ようとしない傾向にありますが、せめて出版だけは、いつも全体を見ていたいものです。 |
まず、企画段階では企画会議で記事内容を決めます。次にどの記事がどこに入るか、何頁になるのかを一覧表にした台割や、制作の日程を書き込んだ進行表を作ります(日程については必ず印刷所と打ちあわせします)。この企画段階で大切なのが視覚イメージです。
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現在の雑誌では視覚的な見せ方は大切です。文章ばかりの単調な頁が続くと読者は飽きてしまい読んでくれません。読者対象や記事内容に合った適度な変化が必要です。そのために各頁の視覚的な流れが分かるようなレビューというミニチュアのラフスケッチ(ミニラフ)を描く雑誌もあります。
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視覚イメージがまとまったら編集作業に入ります。編集者はライターに原稿を依頼したり、写真やイラストなどの視覚材料の手配をします。この時も原稿量や写真の点数はミニラフによって決められます。特に文章原稿は物理的なものです。最近は、先にデザイン作業をして、「○字×○行」というような原稿依頼をする雑誌も増えてきています。このような方法を「レイアウト先行」(先割)と言いますが、まだまだ、原稿類が集まってからのDTP作業が多いようです。
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原稿類が集まったら、編集者は表記・表現の統一などの原稿整理をし、記事内容が読者に的確かなどの判断も行います。依頼した写真やイラストなどが上がってきたら、デザイン入稿の準備にかかります。
ミニラフを参考に、大まかなラフレイアウトを作成します。文章原稿の出力とテキストデータの整理。写真の合い番号の表記やイラストなどのデータの整理など、デザイナーがスムーズな作業ができるように材料をまとめます。ラフレイアウトを見ながらデザイナーと打ち合わせをします。 |
現在のデザイン作業は、Macintoshを使ったDTPでの作業が主流となっています。レイアウトソフトもInDesignがメインとなっています。
雑誌の場合は基本となる4段組、5段組などのレイアウトフォーマットは創刊時に確定しています。天と小口のアキを統一し、可読性を考慮した本文組用の段組みフォーマットの中から編集者の書いたラフにあったフォーマットを選びデザイン作業に入りま |
す。写真中心の記事の場合でも天と小口のアキは、視覚的に統一します。
デザイン・DTP作業が終わった記事はプリンター出力し、初校ゲラ出しとなります。ゲラは必ずトンボ付きで、裁ち切り写真が確認できるものを出します。最近ではデザイナーサイドではPDFを作成し、メールで送り、編集部でプリントしてもらうケースが増えています。日々便利になっていますね。 |
編集部では、初めての印刷管理にあたる文字校正という作業にとりかかります。文字内容に関してはデザイン入稿前の原稿整理で推敲したテキストを渡してありますので、担当編集者にとっては、もう一度内容確認と仕上がり状態となったレイアウトの確認が中心となります。1回目の校正を文字初校、2回目を文字再校と呼び、文字責了となり、文章(文字)の校正は完了となります。
校正ゲラ出しの回数は原則2回(初校・再校)としましょう。やむなく取る3回目の校正は念校と呼ばれ |
ます。初校であっても赤字が少ない場合は責了とします。デザイナーは責了と書かれたゲラが戻ってきた場合は、赤字を直し、次の印刷所入稿の準備に取りかかります。
初校は担当編集者、ライター(著者)、デスク(副編集長)の最低3人は読むようにしましょう。予算に余裕がある場合はプロの校正者にも読んでもらいましょう。別々に読んでもらったゲラは、担当編集者が1枚に赤字をまとめデザイナー(DTP担当者)に戻します。 |
全てのゲラが責了あるいは校了となれば、デザイナーは赤字を直し印刷所入稿の準備をします。入稿データは整理してCDあるいはMOなどに入れます。出力見本をプリントアウトし、アタリデータがある場合は指示(合い番号をふるなど)をします。アナログの写真やイラストがある場合はトレーシングペーパーをかけ、合い番号をふります。
編集部はデザイナーから貰った入稿原稿類を、台割とともに印刷所へ入れます。 印刷所では製版担当者がアナログ原稿を取り込み、アタリ画像と差し替え、印刷可能なデータにします。印刷上での頁順に揃えることを面付けと言い |
ますが、その面付けソフトからイメージセッターにデータを送り製版フィルムを作成します。その製版フィルムから1色の場合は青焼き(アオヤキまたはアイヤキ)校正紙を作ります。
青焼き校正紙は、出力見本やデータ、アナログ写真などと共に編集部へ出校されます。 編集部では、写真はきちんと入っているか網点の調子は大丈夫か、面付けは正しいか、などをチェックし、青焼き校正紙を印刷所へ戻します。 印刷所では、赤字があればフィルムを訂正し次の印刷工程へ進め、本刷り用の刷版(サッパン=PS版)を作成し、印刷へかかります。 |
4色の印刷物の場合は、製版工程で作られた製版フィルムから校正用の4枚の刷版(印刷の項参照)が作られ、色校正紙が印刷されます。色校正紙は、出力見本、アナログ写真などと共に編集部へ出校され、編集部では色校正をします。
色校正のチェック内容は、ほぼ青焼き校正と同じ(色調や面付けの確認)ですが、カラー写真の調子や色網の調子のチェックには、やや専門的な知識も必要となります。 校正が終わったら、赤字の入った色校正紙を印刷所へ戻します。写真集などでは、この色校正を初校、再校と2度以上とることもあります。 |
上の青焼きと、この色校正を製版校正と呼びますが、製版校正は写真の再現やその他の色などの製版関係のチェックのための校正であることを理解してください。この時点で文字に対する赤字を入れることは原則禁止です。なぜなら印刷所入稿の文字データは文字校了データ(文字の直しは終了したデータ)が原則だからです。
色校正紙が責了となり印刷所へ戻ったら、データを訂正し、本刷り用の刷版が作られ、印刷にかけられます。 印刷された用紙は製本工程へ移され、製本され、断裁され、ようやく本や雑誌の形になります。 |
以上が一般的な雑誌を中心とした制作のシステムですが、冒頭にも書いたように制作のシステムは多様化し、出版社や編集部、制作プロダクションによって、さまざまです。ひとつのプロダクションの中でも雑誌と文字中心の単行本では、当然そのシステムは違いますし、同じような雑誌でも内部でDTP作業している編集部もあれば、DTPも含め印刷所にお願いするケースもあります。
また、パソコンの普及にともないDTPでの作業が進み、印刷入稿後の作業でも、予算の関係でフィルムレス(CTP= Computer To Plate)での作業が一 |
般化しつつあります。フィルムから青焼き、あるいはフィルムから色校用の刷版を作っての色校正も、日々少なくなりました。
現在ではDTPデータから直接、色校正紙を作成するDDCP(=Direct Digital Color Proofing)での製版校正が主流となりつつあります。 どのような制作システムであっても、各工程での最低限おさえなくてはならない共通の項目があります。基本システムを、まずは理解しましょう。 また編集者、ライター、デザイナーなど職能による作業分担に対する理解も必要です。 |